女手一つで店を切り盛りしてきた義母から継承して30年

大坪 利子さん(65)

1938(昭和13)年に創業し、83年になります。1代目は、この近所に住んでいた辻さんという女性です。創業から20数年後、主人の母(※以降は「義母」と記載)が辻さんと一緒に店を切り盛りするようになり、義母が2代目を継承。私で3代目になります。義母は主人が7歳の頃に夫を亡くし、女手一つで子育てをしながら店を続けてきました。昭和30年代は、娯楽といえば、それこそ映画館と食堂くらいだったため、すごく繁盛していたそうです。この辺りは港町で商売人が多く、みんな昼間からちゃんぽんをつまみにお酒を飲んでいたと聞きました。
私が嫁入りしたのが約40年前。最初は、わからないことばかりで実家に帰りたいと思うこともありました。お酒を飲むお客さんが多く、戸惑う私をよそに、義母のお客さんを和ませるコミュニケーションはすごかったです。義母は、いつも着物で白の割烹着をパリっと着こなしていて、週に2回はパーマ屋さんで髪を結ってもらっていました。
義母が72歳まで店に出て一緒に働きつつでしたが、私が3代目として店を引き継いで30年が経ちました。今では、ネットの影響で県外から若い人が食べに来てくれることもあります。そんな姿を義母が見たら、きっとびっくりするでしょうね。

創業時からの看板メニューは、佐賀では珍しい魚介ダシのちゃんぽん

大坪 利子さん(65)

うちのちゃんぽんは、1代目から作り方を継承しているもの。イワシやアジ、昆布の一番ダシと醤油がベースなので、うま味がありながらもあっさりとした味わいです。何気なしに継承してきましたけど、魚介ダシのちゃんぽんは珍しいみたいで。佐賀だけでもちゃんぽんの店はたくさんありますが、ほとんどが豚骨や鶏ガラのスープだとお客さんから教えてもらいました。
こだわりは、野菜と麺を一緒に炒めること。スープと合わせる前に麺にうま味を吸わせるので、余計に魚介ダシのコクが感じられるのかもしれません。具材は、キャベツやニンジン、タマネギ、豚肉、ちくわ、かまぼこなど、至ってシンプル。とにかくあっさりしているので、子どもからお年寄りまで幅広い年齢層に人気があります。今日も若い頃から食べに来られていたおじいちゃんが久しぶりにみえて、ちゃんぽんを懐かしそうに食べていかれました。

昭和初期から引き継いできた味を残していきたい

大坪 利子さん(65)

商売をしているからこそ、いろいろなお客さんと出会えたり、同級生が会いに来てくれたり。大変だなと思うことより、幸せだなと感じることの方が多かったので、ここまでやってこれました。
義母が引退するとき「商売は大変やけん、後継ぎせんでもよかよ」と言われたものの、やっぱりこの味を継承したくて。帰省する度にふるさとの味として、楽しみにしてくれてるお客さんもいますからね。
これまでに「よかったら後継者になりたい」という申し出もありましたが、これは難しい問題ですね。娘が2人いますが、後を継ぐという話は出ておらず、今のところ4代目は未定です。少なくとも、母が引退した年齢まで、後7年は頑張りたいです。いつまで店を続けられるかわかりませんが、やっぱり何らかの形でこの味を引き継ぐことができれば、との思いは少なからずあります。

住所:小城市牛津町牛津66-30
電話:0952-66-0412
営業時間:11:00~15:00, 18:00~22:00
休み:月曜
駐車場:あり