喫茶店でのアルバイトがきっかけで料理に興味を持ち、大学を辞めて21歳で創業しました。料理は素人でしたから、長崎県佐世保市からシェフを呼び私の修行を兼ねて何年か働いてもらっていたのです。昔の人は厳しいですから、手取り足取り教えてもらったわけではなく、見て盗んで、とにかく体で覚える日々でした。
創業当初は喫茶店の地下を借りて営業していて、後に今の店舗を新築。それから1年くらいでシェフが辞め、いよいよ私一人になりました。不安もありましたし失敗もしながらでしたが、なんとかお客さんに来てもらえるようにと頑張ってきました。おかげさまで今では、子どもから80～90歳台の方まで、幅広い方に来ていただいています。リピーターも増えました。創業した頃には乳母車で来ていた赤ちゃんが大人になり自分の子どもと来てくれたり、昔アルバイトしていた学生が結婚して家族を連れて来たり……うれしいですよね。そういうのが、私の宝です。

「レモンステーキ」は創業時にシェフから教わって以来作り続けている、いわば当店のルーツ。伊万里牛または佐賀牛を塊から丁寧にさばき、やわらかくてとろけるような食感に焼き上げています。一般的にレモンステーキは薄切りが特徴ですが、当店では薄くしすぎず、ソースの味が染み込んでも肉そのものの味が感じられるようにしました。ソースは、シェフから習ったレモンとしょうゆベースという基本は変えていませんが、創業から5、6年経ったある時「赤ワインを使ったらどうかな？」とひらめき、試作したところ、また習ったソースと少し違い、より一層うまくできた感じでした。それを今も続けています。レモンは、一升瓶6本分くらいのソースに対して15～20個を使用。白い部分をきれいに取り除いた実と皮をミキサーにかけ、風味よく仕上げています。この味を求めて地元や遠方、本場である佐世保市から来てくれるお客さんもいるんですよ。
ハンバーグも創業時から提供していましたが、当時はまだ伊万里牛は使っていませんでした。2008年、伊万里の食を豊かにしようと私たち飲食店などで「伊万里食三昧」という団体を立ち上げ、伊万里牛100％のひき肉を使ったハンバーグを開発。地道な活動の成果もあり「九州ご当地グルメグランプリ」を3年連続でいただくなどして、伊万里牛ハンバーグの名が知れ渡るようになりました。

私もこの先どうしようかと考える年齢になりましたが、うちは一代で終わりだなと思うしかないんですよ。寂しいですけどね。息子と娘も、小さい頃は「コックさんになりたい」なんて言っていましたが、今は違う職に就いています。自分の片腕が欲しいと思った時期もありましたが、やっぱり「料理は自分がしないと」という気持ちもありますしね。
でも、最近になってお客さんから「もったいないよね」という声もいただくんです。今すぐは考えられませんが、あと10年くらい頑張って、私が歳をとった時に「後継ぎになりたい」という人が来てくれたら、前向きに考えられるかもしれません。
これまでずっと常連のお客さんに支えられてきた店ですから、もしも誰かに継いでもらうとしても、今のように家庭的で温かく、リピーターが多い店であり続けてほしいですね。味に関しては、基本的なことは教えますが、後は私もそうであったように自分流にアレンジしていいと思っています。また、店をやるからには料理人ありながら経営もしていかなくてはならないですから、その勉強も頑張ってくれる方だとよいですね。